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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)3125号 審判

申立人 富田千代子(仮名)

相手方 本山功(仮名)

事件本人 本山英子(仮名)

主文

事件本人の親権者を相手方から申立人に変更する。

理由

1  申立人は主文同旨の審判を求めた。

2  事実調査の結果によると、次のとおりの事実が認められる。

申立人と相手方は昭和三四年頃に結婚し(婚姻届は昭和三七年四月二一日になされている。)。その間に昭和三六年八月一九日長女佐知子、昭和三九年六月一一日二女知子、昭和四一年三月一七日三女多美子、昭和四三年一二月三〇日長男洋一、昭和四六年一月一一日二男大志、昭和五一年一月二七日四女英子(事件本人)をそれぞれもうけたが、相手方が怠惰で経済的に不安定な生活であつたことから双方間に不和が続き、昭和五〇年八月中頃から相手方が家を出て別居状態となつた。その後相手方は居所はいわないものの、時折帰宅するという状況が続いていたところ、昭和五一年六月頃相手方が帰宅した際、申立人から離婚の話しをもち出し、その頃相手方から離婚届に署名押印してもらい、申立人が同月一五日同届出を了した。なお、親権者については、事件本人を除く子供五人については申立人が現実に養育していたため申立人としたが、事件本人については、後記のように養子に出すつもりであり、かつ父のところから養子に出してやりたいという気持ちから単純に考えて親権者を相手方としたものである。

ところで、申立人は事件本人を妊娠したとき既に五人の子供があり、当時の生活状況の中では事件本人が生まれても到底育てられないと考えたため、生まれる前から児童相談所に相談し、事件本人が生まれたら直ちに養子に出すこととしていた。そして、事件本人は昭和五一年一月二七日大阪市○○区内の病院で生まれたが、出産と同時に親子の対面もすることなく、同病院から児童相談所に預けられ、その後大阪市内に里子に出され、里親のもとで順調な成長を遂げている。里親は事件本人との養子縁組を望み、児童相談所を通じて昭和五一年一二月二日養子縁組許可の申立てを当庁に対して行つている(当庁昭和五一年(家)第三一二六号)。里親と事件本人との間に格別の問題はなく、里親に養親としての適格性に欠けるところはない。

なお、相手方は上記認定のように、申立人と別居後時折帰宅していたものの、現在は連絡も途絶え、その行方は不明である。

3  以上の認定したところによれば、相手方は事件本人の出生後親としての責務を果してきたとはいえず、また離婚後単独親権者となつてのちも親権者として責任ある態度をとつてきたとはいえない。現状においては親権者として適格性を欠くものと考えざるをえない。しかし、申立人にあつても、相手方と同様事件本人の出生後親としての責務を十分に果してきたとはいい難い。ただ申立人がおかれていた事件本人出生当時の状況からすると、事件本人を児童相談所に委ねるという選択は一概に非難さるべきことともいえない。むしろ、事件本人の幸福を配慮した親としての態度と評価しうる面があるともいえよう。しかし、いずれにしても、現時点においては事件本人の幸福という観点から考えた場合、事件本人を申立人及び相手方のいずれかに委ねるということは却つてその幸福のためにならないといわざるをえない。

ところで、本件は、里親が事件本人と養子縁組をする申立てをなした際、代諾者である親権者相手方が行方不明であることから、児童相談所の指導のもとに申立人から申立てられたものである。すなわち申立人が、里親と事件本人が養子縁組をする際の代諾者となるためになされた申立てである。親権者変更の制度は本来いずれかの親が事件本人を現実に養育し、または養育に責任をもつことを前提として、いずれの親を親権者とすることが子供の幸福のためになるかを決定するものであり、その観点からすれば、本件のように事件本人を現実に養育することなく、またはその養育に責任をもつためでもなく、単に事件本人の養子縁組の代諾者たる地位を与えるにすぎないような場合にまでその適用を拡大することには問題がないわけではない。しかし、親権者変更の制度は窮極においては子供の幸福を図るためのものであり、養子縁組と相まつて子供の幸福が実現されるものと判断される場合には、上記のような場合にも例外的に親権者変更は許されてよいと解すべきである。本件においては、上記認定のように養親となるべき者と事件本人との間には格別の問題はなく、事件本人は順調な成長を遂げており、また養親となるべき者に養親としての適格性に欠けるところはないので、事件本人は養親となるべき者のもとにおいて引続き養育されていくことがその幸福につながるものと認められる。そうすると、本件は上記にいわゆる親権者変更を許すべき例外的な場合に該当するものと判断されるので本件申立てを認容し、申立人を親権者としてその代諾のもとに養子縁組を実現することが相当と考える。

4  よつて本件申立てはこれを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 出口治男)

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